ちりめんの巾着


ふとした拍子に、ホテルで働いていた頃のエピソードを思い出します。
今日は、フロントで働いていた時の忘れ物のエピソードのひとつを。
(“忘れ物”というキーワードだけでも、いくつか思い出されます。
ここには書けない内容も多くて・・・おもしろエピソードいっぱいなんですけれど)
ある日の朝、チェックアウトの時間帯のことでした。
ちりめんの巾着が、ロビーでの忘れ物としてフロントに届けられました。
手作り風のちりめんの巾着です。
巾着の中に、持ち主の手がかりになるものはないか確認しました。
持ち主の連絡先が判るものがありました。
お財布など貴重品も入っていたと記憶しています。
持ち主の方に電話しました。
とても嬉しそうな声で、
「ありがとうございます。
中身はどうでもいいんです。
その巾着はとても大事なもので・・・友達が作ってくれた大切なものなんです。
その巾着を失くして、ショックで、ショックで・・・どうしようかと思ってました。
本当にありがとう!」
そのちりめんの巾着は、大切に長く使っているのが見てわかりました。
作った人の温かさと上品さを感じる巾着でした。
その巾着を手にした瞬間、
早く連絡をとろうした私が、あの時、確かにいました。
手作りの巾着をプレゼントした人の思い。
手作りの巾着をもらった人の思い。
立場の違う人たちの思いが、手作りの巾着を拾得した私に何かわからないけれど、
伝わってきた瞬間だったのでしょう。
ちりめんの巾着を媒介して生まれるコミュニケーション。
想像できます。
「その巾着、ステキね」
このひと言から始まるコミュニケーションを。
コミュニケーションを創り出すのは、人だけではなく、
視点を変えると、すべてのものがコミュニケーションを創り出すことに、気づきます。
巾着に込められた思いの内容は知らなくても、
巾着に込められた思いの大きさや深さを感じ取る力を、人は持っています。

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